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『荘子』 福永光司著 of 新書ブックセンター - 新書専門のレビューサイト -

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著者
福永光司
初版発行
1964年3月30日
ISBN
978-4121000361
定価
756円


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概要&レビュー

本書は昭和39年に書かれたものでありながら、今日まで出版を重ねる超ロングセラー。その理由は読んでみればわかります。とにかく内容が濃い。そして文章もぐいぐいと読むものを引っ張ってきます。この新書の重さは、現在出版されている新書の何冊分にもなるだろう。
本書は、『荘子』という古典を題材にしながら、人という存在を段階的に模索していきます。人生という前に、私たちはそもそも人間である。社会に生きる人間であり、そこには一義的な善悪だけでは判断することができない、多くの矛盾を抱えています。合理的であると思う面もありながら、非合理的な行動を起こしてみたり、人間の心と行動はとめどもなく常にゆらゆら揺らいでいます。そこには善悪と言った単純な価値観では計れないものがあり、善悪を押し付けるものでもない。むしろ時代や地域で異なる善悪でもって人間を計るよりも、善悪を超えていくという思想が必要なのかもしれません。本書では、そういった“超えていくべき価値観”を揺さぶっていき、現代に生きる我々にも厳しく問いかけをしてきます。
本書は、最初の序説において、作者なりの『荘子』の分類をしています。その考察だけでもとても濃く、一読する価値があります。そしてその後に続く『荘子』の解説が、読む者の心に鋭く訴えかけてくることは言うまでもありません。
現在数多くの新書が各社から毎週出版されています。しかしその中でどれだけの本がこの『荘子』と同じように長く読み継がれていくのでしょうか。人間にとっての普遍的な価値観を追い求める本書は、哲学書であり、かつ人間の智への尊敬と賛美に満ちている名著です。


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