概要&レビュー
本書は分子生物学を専攻する福岡伸一博士によるもの。ランゲルハンス島の話しや、癌の話し、ソルビン酸の話など、医学的にも参考になるお話が前半にあります。後半では、分子生物学界で起きたスキャンダルについて書いてあります。後半はノンフィクションミステリーといった感じで、読物的です。
序文には、「ヒトの顔が切り取った「部分」は人口的なものであり、ヒトの認識が見出した「関係」の多くは妄想でしかない。私たちは見ようと思うものしか見ることができない。」とあります。人間という身体を理解しようとするために、西洋医学は部分に分けることにこだわり、部分に分ける方向へ進化を遂げていきました。しかし部分と全体はそもそも生命の中で分かれているわけではなく、人間が便宜上分けてきたものに過ぎません。そこでタイトルの通り、筆者は「分けてもわからない」と言い、“妄想”とも言う。
本書は科学的なことももちろん書かれていますが、それ以上に、科学をとりまく物語的な傾向が強いところがあります。科学と言うと絶対無比な存在で、全てが理論で構築されたものと考えがちですが、実は科学にもわからないことはたくさんあり、科学で判断できないものも多いと言うことが本書から伝わります。
科学を少し横から、そして少し斜めから見てみると、世の中に新しい風を呼び起こす視線を与えてくれる、そんなちょっとした見方の効果を示してくれる一冊です。