概要&レビュー
いつの頃からか、日本の教育は文系と理系に別れます。大学受験を前にして、文系に進むか、理系に進むか選択をするわけですが、そのときの選択がトラウマになっているのか、お互い水と油といった学問のように思ってしまいがちです。しかし本来、真理を追究する学問や知識体系全体に、文系と理系といった違いはありません。この日本の教育が背負ってしまった理系と文系の寸断は、日本の教育界だけではなく、政治や医療といった各専門分野においても不幸をもたらしているのではないかと思うこともしばしばです。
本書の著者の専門分野は物性物理学。本書はその“理系”の目から見た歴史観。著者は幅広い知識と見識の持ち主で数学的な見地から遺跡を紐解いて見たり、その推測の根底に理科、理系の視点があることで、対象が再び新しい息吹を得たような感じがします。
最終章の「アルスの世界」では、理系と文系と別れる以前の学問の世界観を解説し、学問の源流であるアルスに戻ることで、知性と感性の融和を再び取り戻そうとする願いを伝えており、ここだけでも一読の価値があります。